2009年5月8日金曜日

「史上初」への熱狂

今,英語教室の予習でオバマ大統領に関する記事を読んでいます.オバマ大統領に関する記事が英語教室のテーマになるのはこれで2回目です.講師の方は年配の日系アメリカ人の方ですから,有色人種の大統領就任に思うところがあるのかも知れません.

それにしても,この記事には "hip" が実にたくさん出てきます.まあこれはタイトルを見れば分かるとおり記事のテーマなので仕方ありませんが,記事全体に漂う異様な熱っぽさは読んでいて少々疲れます.我々日本人にとっては海外の話ですから大騒ぎするといっても商売の種にしたい出版社や小浜市の方々以外は割と冷静なようですが,アメリカ合衆国国民,特に有色人種の人々の熱狂はさぞ凄まじいのでしょう.

ちなみに,日本海海戦(我が国の海軍が1905年にロシアのバルチック艦隊に対馬沖で勝利)のときは世界中の有色人種が熱狂したそうですが,「小村寿太郎とその時代」などにはアメリカでの反響が記されています:

 アメリカでの反響は、成功物語好きのアメリカ人気質を反映して、凄まじいものがあった。大統領ローズヴェルト自身、一日中海戦のニュースを聞き「神経が立って、自分の身はまったく日本人と化して、公務を処理することもできず、終日来訪者と海戦の話ばかりしていた」といっている。金子堅太郎がワシントンのレストランに入ると、客が次々に立って握手を求め、あるいは杯をあげて日本万歳を唱え、バンドは「君が代」を演奏した。
 『ワシントン・タイムズ』は、日本の勝利は文明・自由・進歩の勝利であるとして、「スラヴ人種とアングロ・サクソン人種は二十世紀中に決死の闘争をする、との予言があるが、はたしていまやその一部が実現したといえる。なぜならば日本はアングロ・サクソンの正統な後継者だからである」といっている。
「日本の勝利は文明・自由・進歩の勝利」というのは,対戦国のロシアが当時皇帝による専制国家であったためで,「日本はアングロ・サクソンの正統な後継者」というのは日英同盟の上で戦争を戦っていたためでしょう.

ここで出てくる「ローズヴェルト」はフランクリンさんの方ではなく,セオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt, Jr.)の方です.この人は,アメリカ外交史の中では例外的に力の現実,即ちパワーポリティクスに準じた考えに徹した人で,たとえば韓国併合については
「韓国は絶対に日本のものである。たしかに条約は韓国が独立を保つべきだと厳粛に約束している。しかし韓国自身は条約の実行に無力である。韓国が自分自身のためにまったくできないことを、どこか他の国が韓国のためにしようと試みるなどと想定するのは問題外である」
と冷たく言い放っています.そのようなルーズベルトが「まったくの日本人と化す」ほどに興奮したというのも何やら愉快な話です.

最後に,同書に書かれたルーズベルトの言葉は個人的に大変共感できる思想なので,引用しておきます.その後のアメリカが理想主義と現実主義の混じった外交行動で現在に至るまで世界中を困惑させてきたことを思えば,含蓄があるように思えます.
「私は空想的な平和の条約や、力の裏付けのない紙切れを信頼しているウィルソンのような態度を嫌悪すべきものと考える。外交政策に関しては、フリードリッヒ大王やビスマルクの伝統のほうがウィルソン的態度よりも、国家や世界のためにはるかによいことである。力の裏付けのない正義に酔うことは、正義という口実を捨てた力以上に有害である」

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